2021年現在、世界を覆うコロナウイルスは以前厳しい現状にあります。
国のあり方、地域のあり方、社会のあり方、そして人間ひとりひとりのあり方。
従来の生きていくということを、見直す段階に来ているのかもしれません。
今回ご紹介する作品はこちら
【いのちは のちの いのちへ ―新しい医療のかたち―】です。
作者は医師の稲葉俊郎さん。
東大病院の循環器内科を経て、現在では軽井沢病院の副院長として勤務されている傍ら、大学の客員教授など多方面で活躍されています。
これから私たちがどう生きていくかのヒントがこの本に詰まっていました。
それでは概要・感想をどうぞ!
概要
序章:病院とは、医療とは
1章:健康になれる場所とは(「いのち」の全体像/病気学と健康学 など)
2章:新しい医療の場とは(感覚を開き、ズレを感じる/健康になれる場/ホスピタルアート/対話の場 津屋崎ブランチ/軽井沢という街の可能性 など)
3章:社会に必要なものとは(存在を肯定する対話/SDGsと医療/いのちからの呼びかけ など)
「医師」という枠では収まらない元東大病院医師、稲葉俊郎氏。「対話」や「場づくり」をキーワードに、従来の病院のあり方や病気の考え方だけでは解決しない、補完し合う存在としての「新たな医療」や私たち自らが関わっていく「医療的な場」とはなにかを考えます。
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病気学と健康学
現代の医療は西洋医学、言い換えると病気学に基づいて治療される基盤が整っています。
病気にかかったとき、どう対処するのか。どうすれば病気を取り除けるのか。
このようなアプローチが必須であることは間違いないのですが、健康学にクローズアップしているケースは多くありません。
健康とはどういう状態なのか。病気にかかっていない状態をいうんでしょうか?
きっとそうではありませんよね。
即効性、即応性の治療の現場として病院がありますが、健康をめぐる様々な問題を病院が一か所で包括的に受け入れることは不可能です。
病院だけではない、健康を創造する場所が必要だと筆者は訴えます。
いのちを支える場
なにか不調があったとき、病院だけに頼ることには限界があります。
こころ・いのちを救う場所として新しい場が提供されたり、各々にとって救われる場所(自然の豊かなところや美術館など)を見出すことが大事です。
海外では「1% for Art」という概念があります。病院などの建設費の1%を投入して、病院に芸術的な癒やしを創造する取り組みです。
医療とは独立した分野ではなく、拡張したり分野をまたいでいのちを支える場として機能していく未来が求められています。
対話を通して”いのち”を考える
現在、医療の場面で患者がいる場で治療方針を決めていくという考え方が広がっています。
従来は医療従事者側という治すもの、患者側の治されるものという二項対立で分断が起きていました。
そのため、一方的な判断や思い込みで患者側の意見が押しつぶされてしまうことが多々ありました。
(精神疾患を抱えた人たちを中心に)
ですが、人間は弱い存在です。ともに手を取り合っていなければ生きていけない存在であるならば、そうした一方的な方向性は本来存在しません。
医療従事者と患者で分断するではなく、対話を通してともに”いのち”を守っていく姿勢が大切です。
感想
身体の不調を感じた時はすぐさま病院。
そういった思考がわたしにも根付いていました。
しかし、この本を読んで本来の目的を見失っていたことに気づきます。
「いのちを守りたい、いのちを大事にしたい」はずなのに、「病気を確認したい、病気を治したい」という思考に凝り固まっていました。
きっと医療従事者の方も、「いのちを救いたい」という動機で日々奮闘されていると思いますが、
「病気を治す」ということにしか特化していない医療体制になってしまっている現状だと思います。
新型コロナウイルスを契機に医療崩壊ということばをよく耳にします。
筆者の提言のとおり、いのちをまもる場の創造が今、求められますね。
それは医療従事者だけの問題ではなく、すべての人にとって等しく考えるべきテーマなのだと、本書を通して学びました。
「いのちはのちのいのちへ」
タイトルでもあるこの言葉は、次世代のいのちを繋ぐこと。
いのちを共同体、地球ぜんたいで考えていく時代へという作者からのメッセージですね。
文章を読んでいても思いますが、稲葉さんは医療だけでなく芸術や文学、さまざまな分野に造詣がふかいことが分かるのも節々から。
難しい専門用語も抑えて、すごく読みやすい文章でした。
医学のはたけの方の本を読むことはあまりなかったのですが、そういった考えもふっとばして、色んな方の本に触れようとも思えた一冊。
ぜひご一読あれ。
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