今回ご紹介する作品はこちら!
[羊をめぐる冒険]です!
[風の歌を聴け]、[1973年のピンボール]を締めくくる青春三部作の完結編です。
シリーズ前作の感想も書いていますので、よければそちらも一緒にご参照ください。
[風の歌を聴け]→ 村上春樹デビュー作! [風の歌を聴け] 感想・レビュー
[1973年のピンボール]→ 村上春樹初期作! 【1973年のピンボール】感想・レビュー!
現実を超越した世界の中にあふれる悲しみの中で、あなたは”僕”とどんな冒険が見えましたか?
それではあらすじ・感想をどうぞ!
あらすじ・概要
「羊のことよ」と彼女は言った。「たくさんの羊と一頭の羊」「羊?」「そして冒険が始まるの」 故郷の街から姿を消した〈鼠〉から〈僕〉宛に、ある日突然手紙が届く。同封されていた一枚の写真が、冒険の始まりだった。『1973年のピンボール』から5年後、20代の最後に〈僕〉と〈鼠〉がたどり着いた場所は――。野間文芸新人賞受賞の「初期三部作」第三作。
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羊が映る一枚の写真
僕のオフィスに奇妙な男が現れ、一枚の写真を見せてくる。それは、僕がPR誌に掲載した羊を含む北海道の風景写真だった。その中の一匹の星型の斑紋をもつ羊を探すことを命じられるが、その写真は長年連絡を取っていなかった友人「鼠」から送られてきたものだった。僕は耳の美しい彼女とともに、羊をめぐる冒険に出る。
羊をめぐる冒険
彼女のことばで導かれるようにいるかホテルに着いた2人は、元緬羊会館会長であった羊博士と出会い、羊の真相に足を踏み入れる。風景写真の手がかりをつかみ、十二滝町へと向かうがそこで僕が見たものとは…
感想
評価 8/10
いやぁ、難しい。
1部や2部と比べると、すごく難解に感じました。
というのも、第3部となる今作では抽象的な概念(そもそも現実世界か、それを超越した世界なのか、はたまたそれが未分化な世界なのか)が多く、羊の存在性や鼠との関係性についても考察するのにすごく頭を悩ませました。
しかし、著者である村上春樹氏はインタビューなどからも分かるように読者の解釈に寛容であり、むしろ様々な解釈ができるようなものを作っているんだと思います。
村上春樹流に言うなら、「完璧な文章なんてものを存在させない」ためなんですかね(笑)
また、この三部作は一貫して退廃的で悲観的な語り口ですが、今作に関してはそれがより際立っています。
主人公の僕が近くにいたら、周りの人間も呑み込んでダークな雰囲気にさせてしまうだろうなぁと。
それでも最終的に僕の中でそういったマイナスな物事に対して区切りはついたみたいで、再三になりますが「完璧な絶望など存在しない」ことを作品を通して伝えたかったのかなと。
それでは以下ネタバレを含みますので、読み終えた方やネタバレが大丈夫な方だけボタンをクリックしてください。
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“僕”の成長の物語
一応三部作を完読して思った僕の感想はこちらです。
こう書くとなんともチープに思えてしまうんですが(笑)たしかにこの[羊をめぐる冒険]は”僕”の成長物語であったと思うんです。
なぜなら”僕”のこのセリフが個人的にすごく刺さったんです。
「どうだろう、そのぶんで僕と鼠をここの共同経営者にしてくれないかな?配当も利子もいらない。ただ名前だけでいいんだ。」
“僕”がジェイに対してジェイズバーの共同経営者になることを名乗り出るんですが、このセリフについて解説していこうと思います。
名前の恐怖に対しての克服
どういうことかといいますと、本書も含めシリーズを通して”僕”が名前をつけることって徹底的にないんですよ。
鼠やジェイはあだ名だし、女性に対しては双子だったり誰とでも寝る女の子だったり呼称が概念ですよね。(笑)
三部作を通してまともにでてきた名前って直子だけ。
この直子の死が、”僕”を決定的に変えてしまったんじゃないかなと。直接的ではないにしても直子の死に対して負い目を感じてしまった”僕”は、名前を通して関わりをもつことを恐れていました。
誰一人名前を忘れてはいなかったんだと思います。
名前を呼ばない表現を通して一定の距離を持とうとするんですが、完璧なつながりを断つことはできないし、そういった身勝手さで離れていった人たちを”僕”が思い出す矛盾をはらんでいました。
ですが、本作のタイトルでもある[羊をめぐる冒険]で鼠との別れを受け入れることで、やっと名前による関係性を築くことができます。
ジェイに対して”僕”と鼠の名前を残すことはそういった覚悟ではないでしょうか?
きっと今まで気にかけていても名前で呼ぶことがなかった猫にもちゃんと”いわし”と呼んであげると思います。
ほかにも書きたい感想や考察は山ほどあるんですが、とんでもない量になってしまうので別の機会で書いていきたいと思います。
ラインで使える一言!
「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。俺は今とても個人的な話をしてるんだ」
一般論を並べてくる友だちがいたら、鼠の言葉を借りてこう言ってやりましょう。
一般的に言えることではなくって、友だちと自分の間で交わされることばを大事にしたいですね。
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