100%の恋愛小説 村上春樹【ノルウェイの森】感想・考察!

小説

今回ご紹介する作品はこちら。

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世界的作家・村上春樹のベストセラー
【ノルウェイの森】です。

1987年に発行されてから国内にとどまらず世界的な売り上げを誇る大ベストセラー。

「世界の中心で愛を叫ぶ」(片山恭一 , 2001年)が出版されるまで日本の小説単行本の発行部数歴代1位を記録していました。

発売当時は、タイトルのとおり「100%の恋愛小説」というキャッチコピーで販売され、装丁も赤と緑のクリスマスカラーというキャッチーなもので注目を集めましたが、
その中身たるや…

静かで、切なくて、もろい。

村上春樹という作家性を知らずに購入した人は困惑したそう(笑)

大切な人を失ってしまった方に読んでほしい、心にしみいる一冊。

それではあらすじ・考察・感想をどうぞ!

あらすじ

作:村上春樹

1949(昭和24)年、京都府生れ。早稲田大学文学部卒業。
1979年、『風の歌を聴け』でデビュー、群像新人文学賞受賞。主著に『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞受賞)、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『ノルウェイの森』、『アンダーグラウンド』、『スプートニクの恋人』、『神の子どもたちはみな踊る』、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』など。『レイモンド・カーヴァー全集』、『心臓を貫かれて』、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『ロング・グッドバイ』など訳書も多数。

amazon著者略歴より

あらすじ

限りない喪失と再生を描く究極の恋愛小説!

暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルク空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの『ノルウェイの森』が流れ出した。僕は1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱し、動揺していた。限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。

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ワタナベトオルは機内から流れる「ノルウェイの森」を聴いてひどく混乱します。

徐々に自分の記憶から損なわれ、失ってしまった18年前の日々を回想します。

ワタナベは高校生のとき、唯一と呼べる友人・キズキを自殺によって失います。

ワタナベとキズキ、そしてキズキの彼女であった直子の3人は多くの時間を共有していましたが、キズキを失ったことでワタナベとキズキは決定的に遠い存在に。

神戸から東京の大学へ進学し、漫然とした日々を過ごしていると、同じく上京していた直子と偶然1年ぶりに再会し、2人で時間を過ごすようになります。

直子の20歳の誕生日にワタナベはともにしますが、恋人を失い精神的な安定を欠いた直子をまえに、ワタナベは直子と交わるが…

現実世界の絶望や悲しみを抱いた純愛小説です。

感想  評価 9 / 10

私のことを覚えていて欲しいの。私が存在し、こうしてあなたのとなりにいたことをずっと覚えていてくれる?

こんな名作を今まで読んでいなかったのか…

今までの自分は何をやっていたんだ!と思うくらい、衝撃的に好きになった作品。

正直、1回目に読み終わったときは、そこまで惹かれるものがありませんでした。

というのも、この【ノルウェイの森】という作品が、村上春樹の作品で1番有名な作品と言っても過言ではないのに、村上春樹っぽくないんです(笑)

一般的に村上春樹の作品って現実を超越した人物や事象が起きて、それが物語のキーファクターになることが多いんですけど、本書ではほとんどそういった描写が見られません

本書のキャッチコピーは記事のタイトルにも書いている『100%の恋愛小説』なんですが、商業用のキャッチコピーの色が強く、もともと村上氏は『100%のリアリズム小説』というフレーズにしたかったそう。(ただ、あまりにも大衆受けしないため、変更されたそうです 笑)

徹底したリアリズム、現実におきた事柄を書かれていると本来読みやすいはずなんですが、最近続けて村上春樹を読んでいたせいか違和感を感じました。

ただ、読み終わってすぐ2回目読み直してみると、魅力が溢れていることに気づきました。

主人公を含めて登場人物がみんなどこかおかしくて(本書風に言うなら欠けている、損なわれている)
完全な人間なんていないんですよね。

ワタナベと同じ寮の先輩・永沢さんなんかはある側面でみたら完璧に見えるけど、反対側から見たら欠けまくってますし、
唯一まともな社会生活を営む同級生の小林ミドリも突拍子のないことをしだしたりいわゆる”普通”がいません。

各キャラが生き生きと、そして時に鬱々と描かれているさまが文字越しに伝わってきます。

死とセックスについて

著者の発言で

『あの小説の中ではセックスと死のことについてしか書いていない』

とある通り、この小説ではビックリするほど多くの人が死に、息をするようにセックスをしています。

文学に慣れていない人からしたら、敬遠してしまいそうな2大テーマですよね(笑)

わたしは抵抗は無かったんですが、そんなテーマを知っていたため、自分の中でかなりハードな構成を想像していました。

しかし、読んでみるとそこに汚さやエグみは一切なく、まるでそうなることが決まっていたように人物の死や性交がありました。(代わりに喪失感や儚さがすごく大きいけれど)

むしろ一種の美しささえ感じたかも。

そういった前評判で敬遠してる人にこそ手に取って読んでみて欲しいですね。

考察

『死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。』

ここから自分なりの考察を書いていきますが、ネタバレを含みますので、本書を読み終えた方のみご覧ください。

まだの方は是非読んでから!!

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それでは下記のボタンをクリックして考察を表示してください。

生を象徴する東京:死を象徴する京都

本作は死んでしまった友人キズキの元彼女・直子と、大学の同級生・ミドリのWヒロインになっており、2人がそれぞれ対比構造になっています。

直子とミドリはそれぞれ近しい人たちが亡くなってしまった共通点を持ちますが、

ミドリは悲しさや不平不満を抱えながらも何だかんだ器用に生き抜くことができます。

一方、直子は精神的に不安定になってしまい、死へと近づいてしまいます。
冒頭の野井戸の話からも、直子は自分が死と近いことを暗に示唆していますね。(村上春樹作品で井戸は死を象徴しています)

大学があり、レコード屋があり、レストランがあり、そういった日常的に生きていくための施設で溢れている東京でワタナベとミドリはデートをします。

東京での描写は先述のとおり、徹底したリアリズムといえるでしょう。

直子は京都の嵐山の山奥にある療養施設にいくことになり、そこは東京など社会生活を営む集団からは隔絶された施設。
ここで過ごす直子は徐々に死へと近づき、最終的に自殺という形をとってしまいます。

「~僕が直子に対して感じるのはおそろしく静かで優しくて済んだ愛情ですが、緑に対しては僕はまったく違った種類の愛情を感じるのです。それは立って歩き、呼吸し、鼓動しているのです。そしてそれは僕を揺り動かすのです。」

ワタナベは直子とミドリに対して生と死の両方を感じています。

生きることを選んだワタナベと死ぬことを選んだ直子。

実はそこに大きな差異はないのかもしれませんが、別れという観点でこの手紙は決定的なシーンでした。

永沢さんと言う男

同じ寮の東大法学部の先輩、永沢さんがキャラクターとしてわたしはすごく好きです。

今でいうとサイコパスという性格区分に当てはまるのでしょうか。

彼は人間的な感情や弱さといった部分を見せず、自分が定めたシステムやプロセス、行動規範で律することで超克していきます。

その規範に完璧に則って行動しているのは確かですが、ハツミさんという彼女がいながら夜遊びで80人もの女性を抱いている『紳士』と名乗っているのを見ると、すこしおかしいですよね。

「自分に同情するな
 ~自分に同情するのは下劣な人間のやることだ」

永沢さんはワタナベに対してこんな言葉を残していますが、その後ハツミさんは自殺をして永沢さんは自分に同情しているともとれる手紙をワタナベに送ります。

「ハツミの死によって何かが消えてしまったし、それはたまらなく哀しく辛いことだ。この僕にとってさえも」

永沢さんの行動がハツミさんを自殺に追いやった要因、もしくは助ける役割を担うことができなかったことは間違いありません。
そこに関しては決して肯定できませんが、永沢さんにも最後こういった人間らしい弱さを抱えているのが見れて好きなキャラクターになりました。

直子となぜ交わり、なぜ死んだのか

ワタナベは直子の誕生日に彼女と交わりますが、なぜああも簡単に直子は受け入れたんでしょうか。

わたしが思うに、直子はキズキの死によって直子自身も死へと傾いていました。
愛する人、そして自分自身でもあったキズキがいなくなったことでキズキに引っ張られる形で死へと傾いていきますが、ワタナベとの再会によって精神的な支えが生まれます。

ワタナベは直子が唯一キズキの死を共有できる存在であり、精神的な支柱となりえる人間でした。

そこで死へと向かっていた直子は生きる道しるべ・ワタナベによってどちらに進むべきか錯乱してしまった。

ただ、問題が2つありました。

1つ目は、ワタナベはキズキのように対等な関係を結べなかったこと。

キズキとは肉体すら共有しているような感覚でお互いに助け合うことができましたが、ワタナベに関しては彼から施すことはできても直子が施すことはできません。

直子は精神的に不安定であるからこそ、物事に対して公正さを求めています。直子にとってはワタナベを助けることが自分の救済にも繋がったのですが、それができませんでした。

2つ目は、お互いの認識のズレ。

なんだかカップルの別れ話みたいな話ですが、2人の場合は決定的に違っていたんだと思います。

直子はワタナベに自分と同じ部分を見出して生きていくことの希望を持つのですが、それはわずかなものでした。

ワタナベは生と死の2面性を持っていて、直子の痛みを共有することはできますが、ミドリとの交流によってワタナベは生の人格が増幅されていきます。

ワタナベ自身、ミドリの生の部分に徐々に惹かれていくので、直子としては生き抜くためにワタナベと共有できるものが無くなってしまったんだなと。

そう考えると、直子はすごく可哀そうですよね。

レイコさんが黒幕?

本書を一回読み終えて、掴みようのない感覚に襲われました。何かを見落としている気がしてならなかったんです。

それですぐ2回目を読み直すと、レイコさんに対する違和感を覚えました。

最後のワタナベとの性交に関しては直子に対する弔い、そしてワタナベ自身の死の側面の葬儀の役割としてのセックスだったのかなと思ったんですが、それ以前に腑に落ちない点が2点あったんですよね。

まず、ミドリの父親の謎のメッセージ。

【切符 ミドリ 上野 頼む】

そして2つ目は最後のミドリへの電話。

「あなた今どこにいるの?」

というミドリの問いかけにこたえることができず、ひどく錯乱しています。

これ変ですよね。

だって直子への葬儀はレイコさんと2人で済んで、直前まではかなり清々しい気持ちになっていたはずなのに半狂乱になっている。

この2つ、レイコさんが実は黒幕だったと考えると辻褄が合うんです。

レイコさんはプロのピアニストへの道を挫折しましたが、その後結婚して幸せな生活を送ります。

しかし、近所のピアノのレッスンを受けに来た少女がレイコさんをひどく惑わし、レイプされたと嘘の噂を流しレイコさんを精神的に追い詰めるもの。

これ、本当は逆だったんじゃないでしょうか。

その少女は自分でも気づいていないほど嘘を抱えていたという話そのものが、主体が入れ替わっている嘘であり、直子もレイコさんによって精神を気づかぬうちにむしばまれていたんじゃないでしょうか。

施設内で飼っているオウムはレイコさんに対し「アリガト、キチガイ、クソタレ」と暴言を吐きます。

オウムって日常的に接する人の言葉しか覚えません。
直子はその発言に本当に参っている様子をみると、ナオコさんが仕込んでいたんでしょう。

レイコさんは直子の死後、ワタナベの家に急に訪れ最終的に性交をします。
性交以前の、大家に平然と嘘をつけるシーンや、一種の弔いとはいえかなり乱暴な形のセックスは、ワタナベを今度は追い込むためでした。

ミドリの父親の病室のシーンで、ワタナベはデウス・エクス・マキナについて語ります。
物語をいい塩梅に調整してくれる神さまで、後の作品『海辺のカフカ』ではカーネルサンダースがその役割を担っているなど、村上作品にはゆかりのあるテーマ。

つまり、ミドリの父親はこの作品のデウス・エクス・マキナなんです。

最後、ワタナベは自分がどこにいるか把握していませんでしたが、あれはレイコさんの洗脳にかかり旭川行きの列車に向かう途中の駅だと思います。(おそらく以前ミドリが訪れた福島の駅)

ミドリの父親が神的な予言によって、ミドリがいる上野行きの切符を買って引き返すよう止めてくれていたと考えると辻褄が合いますね。

だからこそ、本書の冒頭、機内のノルウェイの森でひどく動揺してしまう。

直子の死は悲しいものだけど、本来ノルウェイの森が流れれば、レイコさんが弾いてくれたノルウェイの森を直子とともに安らかに聴く幸せだった時間のはず。

それがトラウマチックになっているのは、レイコさんが自分たちを洗脳し破滅に追いやっていたと気づいたからなんですね。

また、厄介なのが、レイコさん自身も多分自覚がないんです(笑)

自分を少女に置き換えて話していたとすると、本人に自覚はない可哀そうな人と言っていたので、自分でも悪を制御できなかったんでしょう。

あくまで仮説で本筋は恋愛小説だとは思いますが、こういった解釈の余地も残されていると感じました。

クリックするとネタバレ表示

さいごに

いかがでしたか?

個人的には考察も含めて、今まで読んだ村上春樹作品の中で一番好きでした。

ストーリーも登場人物も、そして赤と緑の装丁もすべてが琴線にふれた作品。

さいごに、こちらの画像、友人が描いていたものを拝借しました。

すごく素敵ですよね、改訂版の装丁に使ってほしいくらいです(笑)

まだ読んでない方は、ホントウにおすすめなのでぜひ読んでください!

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