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人を好きになるとき、皆さんはどんな気持ちになりますか?
ワクワクして、心躍る感覚でしょうか。
確かにもちろん、そう。
けれども、真っすぐに人を好きになるのって同時に苦しいこともたくさんある。
全身全霊で恋愛に向き合ったことがある方にぜひ読んでもらいたい一冊。
それでは感想をどうぞ!
あらすじ
作:西加奈子
1977(昭和52)年、イランのテヘラン生れ。エジプトのカイロ、大阪で育つ。2004(平成16)年に『あおい』でデビュー。翌年、1 匹の犬と5人の家族の暮らしを描いた『さくら』を発表、ベストセラーに。2007年『通天閣』で織田作之助賞を受賞。2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。その他の小説に『窓の魚』『きいろいゾウ』『うつくしい人』『きりこについて』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『地下の鳩』『ふる』など多数。
新潮社HP著者プロフィールより
最近は原作『漁港の肉子ちゃん』が芸人の明石家さんまさんプロデュースのもとアニメ映画化されて話題になった作家さんです。とくに女性心理や、色彩の描写が鮮やかですよね。
個人的にはオードリーの若林さんの深夜ラジオでゲストとして出てた時、すごく魅力的な関西弁をつかう方だなぁという印象です(笑)
白いしるし:あらすじ
ふたりでは、会わないようにしていた。
好きすぎて、怖いくらいの恋に落ちた。でも彼はけして私だけのものにはならなくて……ひりつく記憶を引きずり出す、超全身恋愛小説。
女32歳、独身。誰かにのめりこんで傷つくことを恐れ、恋を遠ざけていた夏目。間島の絵を一目見た瞬間、心は波立ち、持っていかれてしまう。走り出した恋に夢中の夏目と裏腹に、けして彼女だけのものにならない間島。触れるたび、募る想いに痛みは増して、夏目は笑えなくなった――。恋の終わりを知ることは、人を強くしてくれるのだろうか? ひりつく記憶が身体を貫く、超全身恋愛小説。
amazon商品リンクより
アルバイトのかたわら絵を描く夏目は、写真家の友人の瀬田の紹介で、瀬田の知り合いの絵描き・間島昭史の個展を紹介される。
そこで夏目は真っ白の絵具で描かれた「富士山」の絵をまえに心を奪われ、忘れていた恋が再び動き出す。
間島への気持ちとは裏腹に、どうしても埋めることのできない2人の距離。
失恋をくり返してきた夏目が恋愛に対して、絵を描くという行為に対してどう向き合うのか。
生きるというテーマ性をも持つ恋愛小説です。
感想 評価 7/10
彼が与えてくれた自由を、私は絶対に忘れない。絵を描こう。絵を、もっともっと描こう。
『白いしるし』新潮文庫p190
人を好きになることって、こんなにも苦しいのか。
純粋な恋愛小説を読んだのは久しぶりだったんですが、恋愛につきもののキラキラした部分はほとんどなく、人を好きになる辛さが描かれていました。
どう頑張っても間島とは結ばれない。
間島に影響を受けた自分が、間島に影響を及ぼすことができない。
読む前まで、絵の具の白って、すごく弱々しい色だと思っていました。
他の色と組み合わせてしまえば、もとの白さはすぐどこかに消えてしまう。
けれど、白が白としてそこにあるとき、圧倒的な存在感が生まれる。
間島が描いた「富士山」は、一見すると紙の白と見分けがつかないくらい真っ白な絵具で富士山の稜線が描かれています。
目を凝らさなければ気づかない白、そして輝いている白。
間島自身をよく表している色だなと、読み終わってすごく思います。
一見弱々しくみえるけど、彼のなかで揺るがない絶対性が白の絵具に絵と言う行為で浮かび上がっていると、あらゆる色彩を集めたような絵を描く夏目は間島の絵に心惹かれてしまう。
この一方向性の思いが、作品の恋愛を物語っています。
夏目の愛、間島の愛、瀬田の愛、塚本の愛。
全員の愛が交差することなんてきっとないんだけど、たしかにそこに愛がある。
作中で夏目は、
恋愛を繰り返すと人間は強くなる、などと言うが、そうだろうか。むしろ脆く、修復のきかないものになるのではないか。
『白いしるし』新潮文庫p22~
と語っていますが、夏目はたしかに強くなっているとわたしは思います。
最後に、絵を描こう、と思えたのも、今までの失恋があったから。
けっして無駄じゃなかったんだよと言ってあげたくなりました。
好みはすごく分かれる作品だと読んで感じました。
苦しい。切ない。どうしようもない。
そんな思いがジワジワと広がっていき苦しくなるのと、間島の恋愛をもう少し深彫りしてほしかったなぁと思い、この評価になりました。
恋の苦しさを接種したい方にはすごくおススメです(笑)
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