『私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う』
今回ご紹介する作品はこちら!
ベストセラー作家・吉本ばななさんのデビュー作にして代表作 【キッチン】です。
ページ数は文庫で150ページ未満ということでサクッと読めてしまう分量です。
ただ、読み進めると、立ち止まって考えることも多く、非常に内容量のおおい小説でした。
生きるってなに? 死ぬって何?
若くして大切な人を失った男女を通して、人生の大切な教訓が得られます。
大切な方を失ってしまったことはありますか?
こころの薬として読んでほしい一冊です。
それでは、あらすじ・感想をどうぞ!
あらすじ
作:吉本ばなな
1964(昭和39)年、東京生れ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1988年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、1989(平成元)年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、『TUGUMI』で山本周五郎賞、1995年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアでスカンノ賞、フェンディッシメ文学賞〈Under35〉、マスケラダルジェント賞、カプリ賞を受賞。近著に『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』『切なくそして幸せな、タピオカの夢』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた単行本も発売中。
【キッチン】のあらすじ
私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う――。同居していた祖母を亡くし途方に暮れていた桜井みかげは、田辺家の台所を見て居候を決めた。友人の雄一、その母親のえり子さん(元は父親)との奇妙な生活が始まった。絶望の底で感じる人のあたたかさ、過ぎ去る時が与える癒し、生きることの輝きを描いた鮮烈なデビュー作にして、世界各国で読み継がれるベストセラー。
「海燕」新人文学賞・泉鏡花文学賞受賞作
唯一の肉親であった祖母をなくした桜井みかげは世界から孤立してしまう。
そんなとき、手を差し伸べてくれた同級生の雄一。
雄一と、雄一の母親・えり子さんの3人で共同生活がはじまる。
絶望の先にある”生きること”について見いだす、愛の小説です。
感想・考察 評価 7/10
『私、私の人生を愛してる』
指先まで浸透していくような文章でした。
人が一生のうちに経験する悲しみ、絶望、その先に見えてくる光がありました。
物語は決して心が躍るような話ではありません。
人の生き死にがまざまざと描かれており、大切な人間を失った人々に焦点があたっています。
みかげは料理研究家のアシスタントに応募したとき、周囲の人間との違いに気づきます。
この人たちは、幸せしか知らない。ひとりで生きていかなくてもいい。
そんな差を見せつけられるからこそ、自らが抱える絶望の現実に目を逸らそうとしても、逃げることができません。
どちらがいいのか分からない。
ただ、みかげはつよい。
自分ごとですが、この本を読んで、高校の顧問の先生のことばを思い出しました。
「悩め考えろ不安になれ絶望しろ!」
…なかなかのパワーワードですが笑、今ならなんとなくわかります。
どん底を経験してはじめて見えてくるものがある。拓けていくことがある。
みかげたちのもとに訪れた大切な人との別れは、決して、あってよかったなんてことはない。
経験した方がいい悲しみなんてない。
ただ、それでも、みかげや雄一が前を向いて手を取り合えたことが、2人の人生を強くしたことは間違いありませんね。
「まあね、でも人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大っきくなっちゃうと思うの」
『キッチン』p59~
雄一の、そしてみかげの母親でもあるえり子さんのことば。
様々なことを経験し、へこたれても、そこから本当の自分が見えてくる。
みかげにとってはそれが、雄一であり、キッチンだったんでしょうね。
おもしろかったのですが、あまりにも生き死にに対する文章としてはさらっとしていたのが少し違和感。
ミスリードかもしれませんが、大切な人の死が人間を強くする、という構図が個人的にそこまですきじゃないなぁと…
また、みかげから見た、幸せな人々。
これ本当に、なんの苦しみも抱えていない人たちなんでしょうか。少し主観的過ぎるんじゃないかなと思い、この評価になりました。
ただ、身近な人の死を経験した方にとって、救いの一冊になることは間違いありません。
吉本ばななさんの『キッチン』、ぜひ皆さんも読んでみてください。
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